まんとみだより vol.34
まんとみ幼稚園の環境 ~ 木工コーナーの道具たちに息づく理念 ~
まんとみ幼稚園では、創設者・近藤千恵子の掲げた「理想の幼稚園」「常識的な幼稚園らしさの撤廃」という理念のもと、子どもたちの真の意味での自由な活動を尊重する保育を、長年にわたり実践してきました。その思想は、単に保育のあり方にとどまらず、園内の環境づくりのすみずみにまで深く息づいています。
その象徴のひとつが、木工コーナーです。ここにある道具や設備には、子どもを「未熟な存在」としてではなく、一人の主体として尊重する、まんとみ独自のまなざしが明確に表れています。

木工コーナーに設けられた作業テーブルは、長年にわたり子どもたちの力強い金槌の音を受け止めてきた、分厚く頑丈な“本物”の台です。単なる作業台ではなく、子どもたちの意欲やエネルギーを全身で受け止める「相棒」として、そこにどっしりと存在しています。両端には、年季の入った万力(バイス)が取り付けられ、木材をしっかりと固定してのこぎりを使うときなどに活躍します。こうした設備は、安全性を確保しながらも、子どもが実際の活動に没頭できるよう工夫されており、「本物に触れることを通して学ぶ」というまんとみの哲学を象徴しています。


道具棚にもまた、丁寧な配慮が行き届いています。金槌や釘抜き、やっとこなどが整然と並ぶ中で、特に金槌は142.5〜184.5gと重さの異なるものが用意され、子どもの手の大きさや握力に応じて選べるようになっています。自分の手にしっくりと馴染む道具を自ら選び取るという行為そのものが、主体性や自立心を育てる大切な体験となっています。やっとこや釘抜きも幼児の手に合わせた特注サイズで、子どもが安心して本格的な作業に取り組めるようになっています。


また、まんとみ幼稚園の木工コーナーには年齢制限がありません。多くの園では4歳児や5歳児からの利用を前提とする中で、まんとみでは3歳児であっても興味を持てば活動に参加できます。そこには常に保育者が寄り添い、安全を見守りながらも、「やってみたい」という気持ちを尊重する姿勢があります。年齢ではなく、子どもの内発的な意欲こそが活動の出発点なのです。

このようにして形づくられた環境は、まんとみ幼稚園が子どもを信じ、尊重し、自由な発達を支えていくという強い教育的信念に支えられています。園のすべての空間が、子どもへの深いメッセージに満ちており、子どもたちはその中で、自分の感性や力を存分に発揮しながら活き活きと学んでいます。

私の前職、青山学院女子短期大学(子ども学科)でも、「まず自分自身が教養豊かな人間になることが、子どもにとって最良の教育につながる」という理念のもと、技術に偏らない人間教育を重視してきました。教員養成を第一の目的とはせず、教養を深める過程の中で免許を取得し、子どもと向き合う現場で本当に必要なことを自ら考え、学び取る姿勢を大切にしていました。
まんとみ幼稚園でも教育実習が行われ、保育の本質を体感した学生たちが数多く本園に就職してきたのも、必然だったように思います。まんとみの「子どもには本物を」という思想は、私の教育観とも深く響き合っています。
教育における環境とは、単なる設備や空間の問題ではなく、そこに込められた思想と価値観の表現です。まんとみ幼稚園の木工コーナーには、まさに教育の本質が息づいており、子どもの可能性を信じて大人も共に育ち合う「学びの場」としての姿が、静かに、しかし力強く存在しているのです。
